PCクラブログ

2006年からの日記です。備忘録です。生活に必要な知識、それを実現しょうと試み続けているのが本ブログです。未熟者ですがよろしくお願いします。

No.16  アクシデント

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三の段を過ぎると、再び杉林の急激な斜面をかき分けながら降りる。私たちは、天に伸びている杉の巨木の根や枯れ木に足をとられ落ち葉に滑りながら、二の段、一の段を過ぎた。
杉林の間から目に入ったのは、山の向こうに傾きかけている夕日である。
もう足や膝がガクガクになっていた。

-----ここから落ちたらひとたまりもないな。と時々思う。しかし途中で休むわけにもいかず、こけつまろびつ降りていった。

下の方でトモさんの声がした。
「水の流れる音がするやろ?この谷の下が不動さんやんな」
確かにこの方角らしいという見当はつく。

----とうとうあの不動さんの滝の近くまで来たんや、
と思った時である。

私は落ち葉で滑った。思わず、足元から滑り出す形になった。後ろのめりに倒れた。一瞬右手にもっていたナタを握ったまま両手をついた。何か、鈍い痛みを右手に感じた。私は立ち止まったまま手の様子を見た。

右手の軍手の小指の付け根あたりが裂けていた。軍手は親指の大きさ程穴が空き、血が滲んでいる。始めはナタの刃で切ったのか? と思ったのだが・・・・尖っていた石に手をついて、それで切れたことがわかった。右手にナタを持っていて自由が利かなかったこともあったろう。

----それほどの痛みは感じなかったのだが、皮だけではなく肉がベロっとしていたのである。

私は驚いた。今までこんな手の怪我をしたのことがなかった。軍手をぬいで慌てて肉と皮をしまい込んだ。周りの人たちも気がついて、駆け寄ってきてくれた。絆創膏を持っていていた方が手に巻いてくれた。傷を見て、少し驚いた様子で二重三重に巻いてくれた。不動さんの滝がすぐ眼の前だというのに今はそれどころではなかった。

私は一瞬ざわめくような胸騒ぎが身体を走り抜けていくのを感じていたが、残っていたペットボトルのお茶を喉に流し込むと、歩くのを急いだ。


両側にびっしりと樹木が生い茂っている 山道は、沈みかけている夕陽が射しかけているものの、大かたは日が届かず暗かった。その杉木立の中から微かな水音が聞こえてきた。その水音は少しずつ高くなりながら近づいてくる。そしてついに耳を聾する音となった。

滝の正面には天を突くような杉の巨木。50数年ぶりの再会ではある。
しかし、私は指の傷が自分の身に影響していないかどうか、降りかかっていないかどうかに心を奪われれていた。
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