PCクラブログ

2006年からの日記です。備忘録です。生活に必要な知識、それを実現しょうと試み続けているのが本ブログです。未熟者ですがよろしくお願いします。

1人の老人が、ダッグアウトの中で雨やみを待っていた。

 

1人の老人が、ダッグアウトの中で雨やみを待っていた。

 

広いグラウンドの中には、この老人のほかにだれもいない。ただ、所々ペンキのはげた、長いベンチに、蝉の死骸が一匹ころがっている。 グラウンドが、千戸近い団地にある以上は、この老人のほかにも、雨やみをする野球帽やこうもり傘が、もう2、3人はありそうなものである。それが、この老人のほかにはだれもいない。  

 

なぜかというと、この2,3年、当団地には、若い人の流出とか老人の増加とかいう少子高齢化が進んでいた。そこで団地のさびれ方はひととおりではない。

 

自治会ニュースによると、今年、70歳以上に敬老祝い品として千円のイオンカードを配ったのが336人いたということである。団地がその始末であるから、ベンチの塗装などは、もとよりだれも捨てて顧みる者がいなかった。

 

犬がうんちする。連れ人が放置する。弁当の箱を捨てる。とうとうしまいには、生ゴミや引き取り手のない子猫や古タイヤを、この公園に持って来て、捨てていくという習慣さえできた。そこで、日の目が見えなくなると、だれでも気色を悪がって、この公園の遊歩道へは足踏みをしないことになってしまったのである。

 

その代わりまた、カラスがどこからか、たくさん集まって来た。昼間見ると、そのカラスが何羽となく輪を描いて、高い楠の木の周りを鳴きながら、飛び回っている。殊に楠の木の上の空が、夕焼けで赤くなるときには、それがごまをまいたように、はっきりと見えた。カラスは、もちろん、公園に散らばっている生ゴミを、ついばみに来るのである。

 

夕やみはしだいに空を低くして、見上げると、ダッグアウトの屋根が、斜めに突き出した折板葺の先に、重たく薄暗い雲を支えている。 どうにもならないことを、どうにかするためには、手段を選んでいるいとまはない。選んでいれば、楠の木の下の寄せ土か、皐月の土の上で、老衰死をするばかりである。

 

そうして、青谷の火葬場へ持って来て、捨てられてしまうばかりである。選ばないとすれば----老人の考えは、何度も同じ道を低回したあげくに、やっとこの局所へ逢着した。

 

しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。老人は手段を選ばないということを肯定しながらも、この「すれば」の片を付けるために、当然、その後に来るべき「草刈り人になるよりほかにしかたがない。」ということを、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。

 

老人は、大きなくさめをして、それから、大儀そうに立ち上がった。夕冷えのする団地は、もうストーブが欲しいほどの寒さである。風はダッグアウトの鉄柱と鉄柱との間を、夕闇とともに遠慮なく吹き抜ける。

 

ネットの裏で座り込んで話していた女も、もうどこかへ行ってしまった。 老人は、首を縮めながら、鼠色の長そでシャツに重ねた、紺のジャージの襖を高くして、グラウンドの周りを見渡した。

 

しかし、老人は雨がやんでも格別どうしょうという当てはない。ふだんなら、もちろん、仕事場の家に帰るべきはずである。

 

ところが、その仕事場は、四・五日前に看板を下ろした。前にも書いたように、当時この町はひととおりならず衰微していた。今この老人が、永年、働いていた仕事の看板を下ろしたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。

 

だから、「老人が雨やみを待っていた。」というよりも、「雨に振り込れられた老人が、行き所がなくて、途方に暮れていた。」と言うほうが適当である。

 

その上、今日の空模様も少なからず、この平成の老人のSentimentalismeに影響した。申の刻下がりから降り出した雨は、いまだに上がる気色がない。

 

そこで、老人は、何をおいてもさしあたり明日の稼ぎをどうにかしょうとして、------言わばどうにもならないことを、どうにかしょうとして、とりとめのない考えを辿りながら、さっきから団地に降る雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。 

 

---------------------------------- 連休3日間は家でぐったりしていた。走りに出ても体の節々が痛く足が動かない。後ろの首筋に手をやると熱っぽい。どうも風邪をひいたようだ。それもウィルスとかじゃなくて寝冷えだと思う。

 

思いあたる節がある。寝入りばな暑くて、布団を腰から下にかけて寝ていた。真夜中から冷えたのだろう。それから数日後徐々に回復してきた実感がある。1周200Mを59-55-53-50と全て1分を切ったそれに現れてほっとしている。 体育祭まであと10日となった。

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